Länder wegen Mordes

革靴で木の幹を蹴り、両手に掴んだ太い枝まで身軽に身体を引き上げると、その大半が木の葉に隠れた。
なるべく木の葉を揺らさぬように、その太い枝の上にしゃがみ込んだシードが小さく息を吐き出した。
「これじゃあ盗人だな。いや、もっと悪質なのか」
ぼやき、目を向ける先には大きな屋敷。
本来屋敷を守るべき高い塀は、既に目の下にある。塀の外に隣接した、この大きな木の枝が敷地内にまで入り込んでいるのだ。
塀の中を見下ろせば、ところどころに灯る灯りが見える。だがデザインを重視して配置された灯りらしく、光の届かぬ場所も多い。
侵入するにはうってつけだ。見張りの数も少ない。
どこを見ても、敵の侵入を想定しているとは考えにくい。
眼下の光景と、頭に叩き込んだ屋敷内の地図を照らし合わせて侵入ルートを想定する。同時に退出ルートをも。
この塀の内側から出ることが一番の難関かも知れない。
それにしても気分良く、とは言い難い。
「特別手当くらいは出るんだろうな」
敵を引きつけるためのいつもの派手な軍服とは異なる、闇に紛れる黒い服装。
何よりも目を引く赤い髪は黒く染め上げられ、邪魔にならぬよう後ろで一つに纏められている。
それだけで充分だと断言した張本人は、この黒い頭を見て遠慮なく笑ってくれたのだが。
そもそも、こんなイレギュラーな仕事をする羽目になったのも全てそいつのせいなのだ。
時間の割に灯りの多く灯る窓をじっと眺めながら、今朝のことを思い出す。