「えぇと、やくそう3つと、どくけしと…これで全部…うわっ!?」
必要なものを書き出したメモを眺めながら歩いていたリオウが、突然の衝撃に声を上げた。
片腕に抱えていた紙袋が落ち、中身が石畳に散らばる。
「す、すみません!余所見していて…」
角を曲がってきた人とぶつかったのだと気付き、謝り…
「何だ、リオウじゃねぇか」
ぶつかった相手が、見知った人物であることに気付いた。
「ビクトールさん…」
「何呆けた顔してんだ。あー、見事にぶちまけたな」
驚いたようなリオウを怪訝そうに見てから、石畳に散らばった道具へ目を落とす。
そしてしゃがみこむと、まだ少し中身の残る紙袋を拾い上げた。
「ほら、お前も拾え」
「あ…は、はい!」
促されて漸く我に返ったリオウが慌ててその場に屈み、足元のやくそうを拾う。
手に取ったそれをビクトールの持つ紙袋に入れ、もう一つ拾い…動きを止めた。
「…あの…ビクトールさん…」
「ん?なんだ?」
「アナベルさんのこと…ごめんなさい…」
リオウの口から出た名前に、ビクトールの手も止まった。が、それも一瞬のこと。
散らばったものものを再び拾い始める。
「お前が謝ることじゃないだろ」
「でも…」
「お前はお前。ジョウイはジョウイだ」
落としていた視線を上げ、ビクトールの表情を窺う。
いつもと変わりのない表情…に見える。内心までを知ることは出来ない。
二人はただ、市長と傭兵隊長というだけの関係ではなく、古くからの知り合いだったらしい。
その事実を知っているだけに…顔を合わせ辛い。
「ありがとう、ございます…」
散らばったものを袋に戻し終えて立ち上がり、礼を告げる。と、頭にぽんと手が置かれた。
「今は戦争中だ。俺もあいつも…戦争に関わった以上、殺される覚悟はしてるさ」
「でも…っ」
覚悟をすることと、本当に死んでしまうことは別ではないか。
そう言おうとして、何とかとどまる。
そんなこと、自分以上に二人の方がよく知っているに決まっている。
なら、一体何を言えるというのか。
ジョウイにも何か理由があったことに間違いはない。だがそれで済まされることではないことも確か。
言うべき言葉もなく、リオウはもう一度頭を下げた。
「…ジョウイ…」
野暮用だと去っていったビクトールの背が見えなくなってから、唯一無二とも言える親友の名を口にする。
何か理由があったにしろ、人を殺していいわけがない。当たり前のことだ。
だからこそ…その理由が分からない。
ハイランドの駐屯地から戻ってきたとき、少しの違和感を覚えた。
その後も何度か気になる点はあった。
その時にちゃんと話していれば、このようなことにはならなかったのだろうか。
何故、あの時ジョウイに何も言わなかったのか。
自分に相談することもなく、独りで大きな何かを決意してしまった親友。
苦すぎる後悔が胸を過る。
彼の様子がおかしくなったのは、ハイランドの駐屯地から帰ってからのこと。そこで何かがあったに違いない。
だが何があり、彼が何を決意し、何をしようとしているのかが分からない。
「君は一体何を…」
一度落とした紙袋をぎゅっと握りしめる。
と、後ろの方から石畳を走る軽い足音が聞こえてきてふと振り返った。
「あ、リオウいたー。帰ってくるのが遅いから心配してたんだよ」
駆け寄ってきた少女はすぐそばで足を止め、にこりと明るく笑いかける。心の迷いを吹き飛ばすかのように。
「うん…ごめんね、ナナミ」
「ううん、何もなかったんならいいの」
小さく笑い返すと、ナナミが元気よく首を振った。
「ほら、早く戻ろう。風の洞窟に行く準備をしなくっちゃ」
「うん、そうだね」
頷くと、くるりと来た方向へと向きなおったナナミが前を歩いてく。
後ろをついてくる姿があることを疑いもせず。
その、自分を信じきった後ろ姿にリオウは安心して、ゆっくり足を踏み出した。
次に会ったときは、親友と正面から向き合うことを心に決めて。
「幻想水滸伝2発売10周年祭」で書かせて頂いた作品。
第4週目の「サウスウィンドゥ・ノースウィンドゥ」。
ハイランドサイトを長年やっておきながら言うのもなんだけど、2主の書きやすさは異常。
ジョウイによるアナベル暗殺後…2主はさぞかしビクトールの下に居辛かったんじゃなかろうかと。。