守りたいもの

「…ジョウイ、遅いね」
「うん…そうだね…」
随分と日も暮れてきた。
ここ数日の強行軍は、まだ幼いピリカにはきつかったのだろう。
ナナミに寄り掛かるようにして、小さな寝息をたてている。
「リオウ、疲れてるでしょ?先に戻っててもいいよ」
「ナナミこそ、ピリカちゃんと戻ってていいよ」
「うん…でもここで待ってたいから」
「うん、ぼくも」
「そっか…そうだよね」
このやり取りも、もう何度目になるか。
遮るもののない、目の前の草原を見つめるも、こちらへ向かってくる影はどこにもない。


ほんとのことを言えば、いますぐにも助けに行きたい。
それが出来ないのは、行ってしまえばみんなに迷惑と心配をかけてしまうのが分かっているから。
特にナナミには、心配をかけたくない。
立てた膝を抱え込み、そっと手の甲へ視線を落とす。
そこに宿る、真の紋章。
本当はこんなものはいらなかった。
でもみんなを守るために力が欲しかったのも本心。
確かな紋章の息衝きを感じるのに、結局ジョウイを守ることは、助けることは出来なかった。
なら、一体何のためにこんなものを体に宿したのだろう。
思わず溜め息を溢すと、ナナミがこちらへ顔を向けた。
「ねぇリオウ。その紋章の力ってどんなのかな?」
まさに今考えていたものと同じ問い掛けに、反射的に顔を上げる。
「真の紋章なんだから、きっと凄い紋章なんだよね。ぱぁっと戦争を終わらせたり出来ないのかなぁ?」
「多分…そういう紋章はないよ」
「えぇ、そうなの?」
真の紋章なんてのは、物語の世界のもの。
27もあるというそれらが、一体どんな力を持つのかは知らないが…そんなものがあれば、今、戦争など起こっていないだろう。
苦笑しながら答えると、さも残念そうにナナミが肩を落とした。
でも…
「そんな紋章があればいいね」
「でしょ?」
ぽつりと溢した相槌に、がっかりしていたナナミが嬉しそうに笑う。
「もしリオウのがそんな紋章なら、こんな戦争はすぐに終わるね。そしたら私とリオウとジョウイとピリカちゃんと4人で一緒に暮らそう?」
満面の笑みで語られる幸せな未来に、ぼくも笑いながら頷く。
いつも明るくて前向きな考え。何のてらいもない、この明るさと元気があるから頑張ることが出来る。
未来に向かって突き進むことが出来る。
大切な義姉と親友を失いたくないから。


「あっ!リオウ!あれ、ジョウイじゃないっ!?」
不意に裾を引かれ、指さされた方へ顔を向ける。
ナナミの声に、眠そうに目を擦りながら少女が目を覚ました。
それに気付いたナナミが少女を振り返る。
「ピリカちゃん!ジョウイが帰ってきたよ!」
「!」
寝惚けていた少女が、一気に眠気を振り払って立ち上がる。
そして同じように立ち上がったナナミと一緒に走り出した。
見た感じ、目立った怪我はなさそうだ。
そのことに安心しながら、リオウも立ち上がり、陽の沈んでいく草原へゆっくりと歩いていく。
守りたい者たちの元へと向かって。


「幻想水滸伝2発売10周年祭」で書かせて頂いた作品。
第3週目の「シンダルから偵察まで」。
ひっそり時間軸間違い。偵察までがお題なのに…偵察後だね、これ。
でも偵察イベントという意味でなら、間違いでないはず…。